ストレージオブジェクト
概要と主要な概念
ストレージオブジェクトとは、フローアイテムを保管するために使用される各種オブジェクトの親クラスです。フローアイテムは、スロットという2次元グリッド形式の保管場所に保管されます。これらのスロットは、ベイ番号、レベル番号、位置/スロット番号の順に整理されています。
ストレージオブジェクトは抽象クラスであるため、このクラスからインスタンスを直接作成することはありません。むしろ、ストレージオブジェクトは、ラック、フロアストレージ、グラビティフローラック、プッシュバックラック、ドライブインラッククラスの親クラスであるため、これらのいずれかのクラスのインスタンスを作成することで、本質的にストレージオブジェクトのインスタンスを作成することになります。
ストレージオブジェクトは固定リソースです。ただし、デフォルトでは、固定リソースの機能はオフになっています。有効にするには、[フロー]タブを使用するか、「A」接続を使用して他の固定リソースを接続します。固定リソースロジックを有効にすると、ストレージオブジェクトは、フローアイテムを入力ポート経由で最大コンテンツの値に達するまで受け取ります。各フローアイテムがラックに入ると、ストレージオブジェクトは、そのアイテムについて最短滞在時間関数を実行します。この関数は、そのフローアイテムの最短滞在時間を返します。ラックはその期間タイマーを起動します。タイマーが終了すると、ラックはフローアイテムをリリースします。
イベント
イベントの詳細については、「イベントリスニング」ページを参照してください。
ストレージオブジェクトは固定リソースであり、すべての固定リソースに共通の標準イベントを使用します。これらのイベントの説明については、「固定リソース - イベント」を参照してください。
ストレージオブジェクトには次の追加イベントがあります。
最短滞在時間
このイベントは[最短滞在時間]フィールドが評価されたときに発生します。ストレージオブジェクトの[固定リソースとして使用]チェックボックスがオンの場合にのみ評価されます。
次のパラメータがあります。
パラメータ | タイプ | 説明 |
---|---|---|
アイテム | オブジェクト | 入るアイテム。滞留時間が割り当てられます。 |
ポート | 整数 | 入るアイテムの入力ポート番号 |
このイベントは指定されたアイテムの最短滞在時間を返します。
滞留時間終了時
このイベントは、アイテムが最短滞在時間に到達したときに発生します。このイベントの後、ストレージオブジェクトはアイテムをリリースします。ストレージオブジェクトの[固定リソースとして使用]チェックボックスがオンの場合にのみ評価されます。
次のパラメータがあります。
パラメータ | タイプ | 説明 |
---|---|---|
アイテム | オブジェクト | 滞留時間を完了したばかりのアイテム |
スロット割り当て時
このイベントは、アイテムがこのオブジェクトの特定のスロットに割り当てられたときに発生します。つまり、アイテムのStorage.Item.assignedSlotプロパティが設定されたときです。
次のパラメータがあります。
パラメータ | タイプ | 説明 |
---|---|---|
スロット | Storage.Slot | 割り当てられたスロット |
アイテム | オブジェクト | 割り当てられたアイテム |
スロットエントリ時
このイベントは、アイテムが特定のスロットに入ったときに発生します。基本的にエントリ時イベントと同じタイミングですが、スロットが割り当てられた後で実行されます。そのため、スロットはこのイベントのパラメータです。
次のパラメータがあります。
パラメータ | タイプ | 説明 |
---|---|---|
スロット | Storage.Slot | 関連付けられたスロット |
アイテム | オブジェクト | 入るアイテム |
スロット終了時
このイベントは、アイテムが特定のスロットから出るときに発生します。基本的に終了時イベントと同じタイミングですが、出るスロットに明確に関連付けられている場合に実行されます。そのため、スロットはこのイベントのパラメータです。
次のパラメータがあります。
パラメータ | タイプ | 説明 |
---|---|---|
スロット | Storage.Slot | 関連付けられたスロット |
アイテム | オブジェクト | 出るアイテム |
スロット割り当て方法
このイベントは、各[スロット割り当て方法]フィールドが評価されるときに発生します。
次のパラメータがあります。
パラメータ | タイプ | 説明 |
---|---|---|
アイテム | ツリーノード | 入るアイテム。ベイまたはレベルが割り当てられます。 |
このフィールドの実行は、アイテムの正しい配置先スロットを検索するときと、Storage.Item.assignedSlotプロパティを設定してそのスロットにアイテムを割り当てるときに役立ちます。
状態
ストレージオブジェクトはどの状態も実装していません。コンテンツグラフを使用して統計を取得してください。
統計
ストレージオブジェクトはすべての固定リソースに共通の標準統計を使用します。これらの統計情報については、「固定リソース - 統計」を参照してください。
プロパティ
ストレージオブジェクトには、さまざまなプロパティを持つ6つのタブがあります。最後の3つのタブは、すべての3Dオブジェクトに共通の標準タブです。これらのタブのプロパティの詳細については、以下を参照してください。
ストレージオブジェクトには、[フロー]タブもあります。このタブには、主に標準の固定リソースの[フロー]タブと同じプロパティが含まれていますが、標準の固定リソースロジックを有効にする追加のプロパティも含まれています。これらの固有のプロパティについては、後述の「フロー」セクションで説明します。
残りの2つのタブである[ストレージオブジェクト]タブと[寸法]タブは、ストレージオブジェクトに固有です。これらのタブのプロパティについては、以下のセクションで詳しく説明します。
[ストレージオブジェクト]タブ
[ストレージオブジェクト]タブには、次のプロパティがあります。
スロット割り当て方法
スロット割り当て方法は、フローアイテムがストレージオブジェクトに到着し、スロットを割り当てる必要があるときに評価されます。なお、スロット割り当て方法が評価されるのは、スロットにまだ割り当てられていないフローアイテムがストレージオブジェクトに配置される場合に限ります。Storage.Item.assignedSlotプロパティの設定によってすでにスロットが割り当てられているフローアイテムについては、割り当て済みのスロットが優先するため、スロット割り当て方法は評価されません。
スロットスタッキング順序
[スロットスタッキング順序]では、各スロットにアイテムをスタックする方法を定義します。アイテムをスタックするときの軸を1つ以上定義できます。アイテムは、軸の定義順にスタックされます。設定例を示します。
スロットスタッキング順序 | サンプル |
---|---|
X+ >> Y+ >> Z+ | |
Z+ >> X+ >> Y- |
なお、[スロットスタッキング順序]は、ラックオブジェクトとフロアストレージオブジェクトの場合にのみ表示されます。グラビティフローラック、プッシュバックラック、ドライブインラックについては、ラックタイプの性質からスタッキング順序が決まっているためです。
ビジュアル化
オブジェクトの[ビジュアル化]では、3Dビューでのストレージオブジェクトの表示方法を定義します。ツールボックスのストレージシステムに事前定義(またはカスタム定義)されたビジュアル化リストから選択します。
アドレス方式
オブジェクトの[アドレス方式]では、ストレージシステムに複数存在する可能性のあるアドレス方式からどれをこのストレージオブジェクトに適用するかを定義します。なお、このプロパティを定義する必要があるのは、モデルがアドレス、つまりStorage.system.getSlot()メソッドを使用して直接スロットにアクセスする場合に限ります。
ゾーンID
オブジェクトの[ゾーンID]では、オブジェクトのアドレス方式に基づいてゾーンIDを定義します。ゾーンIDと通路IDの組み合わせによって、ストレージオブジェクトのスロットを一意にアドレス指定することができます。
通路ID
オブジェクトの[通路ID]では、オブジェクトのアドレス方式に基づいて通路IDを定義します。通路IDとゾーンIDの組み合わせによって、ストレージオブジェクトのスロットを一意にアドレス指定することができます。
開始、幅、進行
オブジェクトのベイ、レベル、スロットに対して、開始、幅、進行の設定を定義できます。これらのプロパティの組み合わせによって、スロットを一意にアドレス指定することが可能になります。開始プロパティでは、ストレージオブジェクトの最初のベイ/レベル/スロットに関連付ける数字(または英字)を定義します。幅プロパティでは、特定のベイ/レベル/スロットから隣接するベイ/レベル/スロットに進むときに、アドレスをいくつ進めるかを定義します。進行プロパティでは、次のベイ/レベル/スロットに進むときの方向を、ストレージオブジェクトのローカル座標系に基づいて定義します。
これらのプロパティを使用してアドレス指定方式を正しく定義する方法をいくつかの例で示します。
- 通路の左右を区別する - 多くの倉庫では、ベイ番号を偶数と奇数に分けて、通路の左側と右側を区別しています。たとえば、ベイ番号が偶数の棚を通路の左側に、奇数の棚を通路の右側に配置するとします。そのためには、左側のストレージオブジェクトの[開始ベイ]を2に、[ベイ幅]を2にします。つまり、このオブジェクトの「最初」のベイの番号は2で、次のベイの番号は4になります。通路の右側のオブジェクトの場合、[開始ベイ]は1に、[ベイ幅]は2にします。つまり、このオブジェクトの「最初」のベイの番号は1で、次のベイの番号は3になります。このようにすると、左側には偶数番号のベイを、右側には奇数番号のベイを定義できます。
- 通路の両側に適切なベイ進行を定義する - [ベイ進行]プロパティを使用すると、通路の両側にあるストレージオブジェクトのベイ番号を適切に「進める」ことができます。ピッカーが通路を進むときに、右側のベイ番号と左側のベイ番号が同じように進む必要があります。ただし、通路の両側にあるストレージオブジェクトのピックフェースがどちらも通路側を向いている場合、[ベイ進行]のデフォルト設定(X+)では、ベイ番号の増加方向が互いに逆になります。そのため、通路の片方のストレージオブジェクトの[ベイ進行]をX-に変更すると、ベイ番号は同じ方向に増えます。
- 床より高い位置をレベル「1」として定義する - アイテムを床と同じ高さに保管することが許可されない倉庫やラックがあります。その場合、レベル「1」は、床より上にある最初のレベルとなります。FlexSimでは、ストレージオブジェクトの底面(床面など)をオブジェクトの「最初」のレベルと見なします。そのため、この状況に合わせてオブジェクトをカスタマイズするには、まず、「床」と同じレベルにあるスロットをすべて格納不可として定義し、オブジェクトの[開始レベル]を0に設定します。これは、格納可能スロットの最初のレベルが、床より高いレベル1であることを意味します。
スロットをアウトバウンドアイテムでマーク
このチェックボックスは、アウトバウンドアイテムが格納されているスロットを赤色で強調表示します。
列を拡張
このチェックボックスをオンにすると、一番上の棚より上にもオブジェクトのサポート列が描画されます。このプロパティはフロアストレージオブジェクトには該当しません。
棚の傾斜量
この数値は、ラックの特定のスロットにアイテムを配置するときの傾斜量を定義します。製品がラックの後部から前部へ滑り降りるグラビティフローラックとプッシュバックラックで最もよく使用します。このプロパティはフロアストレージオブジェクトには該当しません。
ピッキング/配置のY方向のオフセット
この値を使用して、ラックからフローアイテムをドロップまたはピックアップするときに、どのくらい輸送オブジェクトをストレージオブジェクトに近づけるかを設定します。オペレーターはラックの間に入ってフローアイテムを取得することがよくあるため、オペレーターを使用してラックからドロップおよびピックアップする場合この設定は特に便利です。たとえば、値1を指定すると、オペレーターはフローアイテムをドロップおよびピックアップするときにラックから適度な距離を維持します。このプロパティはフロアストレージオブジェクトには該当しません。
フロー速度
[フロー速度]は、グラビティフローラックとプッシュバックラックの場合にのみ表示されます。このプロパティでは、アイテムがラックを流れるときの速度を定義します。固定リソースロジックを使用しない限り、このプロパティは単にアニメーション目的であり、モデルの結果には影響しません。
[寸法]タブ
[寸法]タブでは、ストレージオブジェクトを構成するスロットの寸法を定義します。ベイ、レベル、スロットのサイズとカウントは、個別に定義することも、オブジェクト全体で定義することもできます。
タブの上部にあるメインペインは、オブジェクトのピックフェースに向かって立ったときに、ベイ、レベル、スロットの寸法がどのように見えるかを示しています。ベイ、レベル、スロットの番号は色分けされています。
メインペインの下にある色分けされた一連のコントロールには、各種の幅、高さ、カウントを定義した入力値が表示されます。メインペインで特定のセルを選択していない場合、定義した入力値はオブジェクト全体に適用されます。一方、特定のセルを選択した場合、定義した入力値は、可能な場合、選択したセルに適用されます。
特定のセルのセットを選択するには、目標のエリアの上のコーナーでマウスボタンを押し、下のコーナーまでカーソルをドラッグします。囲んだエリアに含まれるセルのセットが選択されます。
ベイ/レベル/スロットの数
ベイ/レベル/スロットの数を定義すると、選択したセルのセットまたはオブジェクト全体のベイ/レベル/スロットの数が変わります。
ベイ幅/レベルの高さ/スロット幅
ベイ、レベル、またはスロットの該当サイズを変更することもできます。そのためには、ウィンドウの一番下にあるそれぞれの入力コントロールを使用します。
格納可能スロット
[格納可能スロット]チェックボックスをオフにして、一連のセルを「格納不可」にすることもできます。ペインでは、格納不可能なスロットの上に赤いX印が表示されます。このスロットにアイテムを割り当てることはできません。Storage.system.findSlot()メソッドによるスロット検索の際、このスロットはデフォルトで除外されます。
スロットパディング
右側の[スロットパディング]ボタンを押すと、スロットのパディングを定義するコントロールのペインが展開されます。スロットのパディングでは、スロットの端面付近のスペースのうち、アイテムの格納に使用しない部分を定義します。スロットの6面のそれぞれにパディングの量を個別に定義できます。
[フロー]タブ
固定リソースとして使用
オンにすると、オブジェクトは固定リソースロジックを実行します。つまり、アイテムを入力ポート経由で受け取った後、アイテムをリリースし、出力ポート経由でアイテムを送り出します。
最短滞在時間
このフィールドは、フローアイテムがリリースされて下流に進む前にラック内に滞在する時間の値を返します。また、この関数から値-1を返すことで、ラックがアイテムをリリースしないようにしてからreleaseitem()コマンドを使用して独自のリリース方法を実装することもできます。
最大コンテンツ
この数値は、任意の時点でラックに保持できるフローアイテムの数を定義します。
このタブの残りのプロパティについては、固定リソースの「[フロー]タブ」を参照してください。